背中が語っていた。
男は背中で語る。べらべらとしゃべり過ぎる男はだめだ。背中がその人の人生を語るのだ。
シャンシャンシャンシャンシャンシャン……。と鈴の音が聞こえてきそうなこの時期、独り者にとっては恐れ多いクリスマスが近づいてきている。
いつものように私の元にはサンタがやってくることはない。当然だが、サンタの存在は架空であることはもうすでに知っているのだ。もう夢見る少女じゃいられないのだ。しかし、そんな私にもサンタを無邪気に信じていた時代はあった。枕元に前から欲しがっていたおもちゃがあり、それを両親に見せて大はしゃぎしていた。たまに、願いとは違うプレゼントが置いてあることもあったが、それでも私は喜んで両親にそれを見せた。
あるクリスマスの日、朝起きると私は願い通りのファミコンのカセットが枕元に置いてあるのを確認した。二段ベッドの下で寝ている弟にも届いていると思い、声をかけようと下を覗き込むと、破り捨てられた包装紙の脇にプレゼントはあった。
当時、ハイパーヨーヨーが流行しており、弟はそれを欲しがっていた。しかし、弟の枕元に置かれていたそれはヨーヨーだった。ハイパーな感じがまるでないヨーヨーだった。なぜか京極夏彦が着けていそうな指なし手袋が付属されていた。
背中を向けた弟に、私は何か声をかけようとしたが、やめた。
「今の俺に話しかけないでくれ」
弟は背中で語っていた。
「今はそっとしておいて欲しい」
弟の背中はそう言うのだった。